真夜中のランデブー

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着きました、チャンミンがそう言ってシートベルトをはずした。同じようにシートベルトを外そうとする俺を手で制して、チャンミンは車を降りてドアを開けてくれた。 普段こんなことしないからちょっと照れくさいが、改めて今、大切な時を過ごしつつあると実感した。 降りる瞬間時計をちらりと見る。 俺の誕生日まであと30分 連れてこられたのは、街を見渡せる高台だった。もう少し早い時間ならカップル達で溢れているこの場所も、今は誰もいない。 俺とチャンミン、二人きり。 「綺麗………」 眼下に広がる夜景に、思わず呟く。 隣のチャンミンが微笑んだのが雰囲気でわかった。 「…………貴方の誕生日パーティー、僕が何も言わなかったこと起こってます?」 ぽつりと、チャンミンが呟く。 誰かに問うわけでもないような抑揚に一瞬戸惑ったが、内容から察して俺に向けて言ったのだろう。 「怒ってないよ」 「ほんとうに?」 「ほんと。ただ、」 「ただ?」 「………ちょっとだけ、寂しかった。なんかチャンミンなりに考えてるとは思ったけど、寂しかったよ」 「…………そう」 チャンミンが身体をこちらに向けた。俺もチャンミンに向き合う。 真摯な視線に捕らわれて、思わず息をのんだ。 「最初は悩みました。でも、貴方の、大切な貴方の大切な誕生日に言う言葉を、無駄使いしたくなかった。祝福の言葉はもうたくさんもらっただろうけど、でも、僕からの言葉は特別であって欲しかったんです」 ――――こいつは、いつの間にこんなにかっこよくなったんだろう?つい最近までかわいいマンネだったくせに。知らない間に成長していたなんて。俺の心が、こんなにもときめくなんて。 「………言われただけでも特別だけど?」 悔しくて、ちょっと拗ねたように言うと、真剣だった目が和らぐ。 「わかってますよ。これはただの意地ですから」 チャンミンがふと腕時計に視線を落とす。 顔を上げたチャンミンは、いたずらに微笑んだ。 「あと10秒」 何が、なんて聞かないよ。
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