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仕事帰りのバンの中
彼は、知らず知らずその温もりを探す
バラエティーの収録は、いつになっても疲れるものだ。もともと愛想笑いは得意だし、求められたトークをするのも大分なれた。ただ、いつどんな表情を引っこ抜かれるかわからないから一瞬たりとも気が抜けない。
万が一あくびをしたり笑い話にしかめた顔をしたりして、それが放送されたらどうする?
先輩みたいに、アンチファンとやり合う気迫はあいにく持ち合わせていない。
チャンミンは、揺れる車内で小さく息をついた。
窓から日がすっかり沈んだ町を眺めた。点々とある街路樹や街灯は、チャンミンを確実に夢の世界へと引き込む。
うつらうつらと船をこぐ。
そうしながら、チャンミンは無意識に手を動かした。
ふと触れたぬくもり
いや、違う、彼が手を伸ばしたんだ、とチャンミンは感付いた。繋いだ手はチャンミンとは反対側の手だったから。
「疲れた?」
低い、穏やかな声。
耳を通じて全身に染み込む。
チャンミンに近い方の手を伸ばし、その柔かな髪にそっと触れた。
襲いかかってくる睡魔に抵抗することができずに重いまぶたを閉じたまま、チャンミンは頷いた。
「今日も頑張ったね、お疲れさま」
目を閉じたまま、チャンミンには自分を見つめるその柔らかな眼差しを思い浮かべた。
嬉しくて、チャンミンはきゅっとつないだ手に力を込めた。
強く握り返した大きな手のひらと、頭を撫でる優しい手のひら、そして自分を見つめる眼差しに、心も体も暖かくなり、チャンミンはこの上ない幸せと安心感の中眠りの世界に堕ちていった。
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