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―――チリン……チリン…
小さな鈴の音が鼓膜を揺らす。
身体中が波打ってるような、奇妙な感覚が紗八の意識を揺り起こした。
(……私、死んだ、かな)
最後に唯一覚えているのは、柚那の驚いた顔と耳障りなクラクション。
(それと、鈴の音)
薄れていく意識の中、柚那の悲鳴よりもトラックの音よりも、それがやけに鮮明に聞こえた。
そう、今のように、耳元で鳴っているような……
「……え?」
重い瞼を無理矢理持ち上げると、視界一面が真っ白に染まった。
ゆっくりと上体を起こしてあたりを見渡す。景色もない。地面もわからない。自分のいる位置が地面なのかもわからない。
妙な気分だった。
いきなり死んでしまったはずなのに、心は不思議と軽い。
何よりも、トラックにぶつかったはずなのに、身体のどこも痛くない。
「あー、あー……うん、声は出るんだ」
じっとしても何も始まらないし、変わりやしない。腰を上げ、制服についた土埃を払う。
ぐっと腕を空に伸ばして、背伸びをした。
「つーか、ここどこよ」
確かに紗八は交差点の信号の前にいたはずだ。仮に吹っ飛ばされたとしても、空も地面も真っ白だなんてありえないし、何も音がしないなんておかしい。
「は、何。ここが天国って?」
残念ながら死んだ人から天国の行き方など学んでいたはずもないし、紗八は宛もなく歩き出した。
相変わらず、耳元の鈴の音は止まない。
チリン…―――
『おはよう、桜花の君』
「―――!?」
反射的に後ろを振り返った。だがそこには誰もいない。
「誰!?」
『気分はどうだい?桜花の君、君は3日の間眠っていたんだよ』
「は……って3日!?」
そりゃ痛みもなくなるわ。紗八は心の中で納得した。
謎の声はどこからしているかわからない。すべてを見渡しても、人影はおろか塵1つ見つからなかった。
「あんた誰?どこにいるの?私の声聞こえるなら姿見せて―――」
『ああ!待ちわびたよ桜花の君!!』
「!?」
紗八は思わず両耳を塞いだ。ステレオの音量をいきなり最大にされたかのような莫大な音が空間を木霊する。
耳を塞いだところで意味はなかった。頭の中で叫ばれているようだった。
『僕らはずっと君を待っていたんだよ!何十年も、何百年も!!』
「な、何言って……」
しん、と騒音が止む。
『可哀想な桜花の君』
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