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どうして私を知ってるの。
どうしてそんなに寂しそうなの。
あなたたちは一体誰―――?
「……あれぇ?」
おどけたような顔をして見せる青年は、地面に倒れている少女に目を止めた。
いつもなら、気に止めることしなかったはずだ。その青年が、何故その少女に近づいたのか。
「変な着物…」
少女の奇妙な服装と、倒れていた場所。
青年の背後にどっしりと構えられている門には、「新選組屯所」とあった。
「……土方さんに言ったほうがいいのかなぁ」
「おう、沖田さん。何してんだ?」
「門の前なんかでしゃがみ込んじゃって。蟻の行列でもいました?」
「ああ、原田さん、永倉さん。丁度良かった、彼女運ぶの手伝ってください」
にこりと笑った青年の上から、巨体な男と小柄な男が少女を覗き込む。一瞬怪訝そうな顔をして「新しい女中志願の方法か?」と茶化した。
「さぁ……女中志願かどうかは知りませんけど、このままウチの前に置いておくのもあれでしょう?」
「それもそうだねー。よし、左之!出番だ!」
「任せろぱっつぁん!」
「……だけど、本当に妙な着物着てやがる女の子だねぇ」
ぐったり横たわっている少女を米俵のように担ぎ上げ、のしのしと巨体の男は門の中へと戻っていく。小柄な男も「それじゃあ」と笑って後を追った。
今日は京菓子でも買って、近所の子たちと遊ぼうと思っていたけれど…もっと面白いことがおきそうだ。
彼女については彼女が目覚めてからゆっくり話してもらえばいい。
「沖田さーん!こいつどこに運んだらいいかねぇ!」
「適当な空き部屋に寝かせてあげておいてください。私は土方さんに話してくるので、後で副長室に来ていただけると嬉しいです」
「おう、わかった」
片手を挙げる2人を見送ってから、青年は少し歩いた場所にある縁側から廊下に上がった。
障子の向こうから微かに煙草の臭いがする。
身体に悪いなぁと苦笑いしながら、障子を開けた。
―――チリン…
「―――まただ…」
小さな鈴の音が聞こえる。実体はないのに、音だけが確かに存在している。
鈴に揺り起こされるように、紗八はゆっくり目を開けた。
が。
「…ここどこ……」
さっきからわけのわからない場所に飛ばされすぎだ。
結局、意識がまた途切れる前のあの真っ白の空間も、謎の子供のような声も、わからず終いだった。
「で、今度は?」
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