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「知ってる?私、男子たちの間じゃユナの騎士(ナイト)って思われてるらしいよ」
「サユちゃんが?やったぁ、それじゃあ私たちに敵なしだね」
Vサインを作って笑う柚那。
こういう彼女の無邪気な心が、私は好きだ。
何より嘘だと思えないし、自然と心が温かくなる。
にこにこ笑う柚那の鼻を無意識に摘んでいた。
「さ、サユちゃん離してよぅ!」
「可愛いなぁ、ユナは」
「……サユちゃんずるい」
可愛いと言われるのが嫌いでも、何故か柚那は紗八に言われると何も言えなくなってしまう。
それが柚那の"特別"だと思った。長年幼なじみをやってきて、それ以外の"特別"を見たことはなかった。
だから心のどこかで安心していた。
柚那は、絶対に私を裏切らない。
そんな保障など、どこにもないと言うのに。
柚那と毎日一緒に歩く通学路。
同じ鞄にそれぞれ違うストラップをつけて、並んで歩く私たちは他の人たちの目にはどう写っているのだろうか。
以前、柚那にストーカーがついたことがあった。一見弱そうな柚那でも、あんな無茶苦茶に泣くことはなかった。
だから、あの日柚那が泣いて抱きついていたのにはとても驚いた。
朝はずっと一緒に登校していた。けれど、帰りは今日のように柚那が呼び出されることがあったから別々に帰っていたのだ。
それ以来、紗八は柚那のボディーガードも兼ねて一緒に登下校をしている。
あんな壊れそうな柚那を、もう二度とは見たくないから。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。今日もありがとう、サユちゃん!」
何事もなく柚那を家まで送り届け、手を振って帰路につく。
1人は別に嫌いじゃないけれど、明るい柚那と別れたあとだと、少しだけ寂しい気持ちになる。
柚那の家から紗八の家までは若干距離がある。
その途中にある小さな公園を通りかかった時、元気に走り回る子供たちを見かけた。
あんな風に、世界に何の疑問を持たず笑っていられた頃が、懐かしい。
大人になることが決していいこととは言えないことを今になって知る。
どうしてあの時、もっと、ちゃんと、「自分だけの」世界を知っておかなかったのだろうか。
ゆっくり子供たちから視線を外して、止めた足を無理矢理動かした。
しばらく歩くと見えてくる、厳格な日本家屋。「箕神道場」という名前が掘られた門を潜り、玄関の扉を開けた。
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