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その分。お母さんが修得できなかった分。祖父からお母さんに伝えられなかった分全て、私にきているのだ。
だが、それを苦痛と思ったことも投げ出したいと思ったこともない。
ただ期待に応えたかった。
それは自分にしかできないことだったから。
けれど、祖父は絶対に紗八を認めようとはしなかった。
テストで満点をとっても、マラソン大会で優勝しても、球技大会でMVPをとっても、祖父は紗八ににこりとも笑いかけてくれなかった。
どうすれば祖父に認めてもらえるのか。気づけばそればかりになっていて、紗八には剣道しかなくなった。
大好きだったはずの剣道も、今は名前を聞くだけで嫌になる。
「……甘い」
いつになったら、私は"私"と認めてもらえるんだろう。
昔、こんなことを言われたことがある。
「紗八と柚那って、ほんとに正反対だよね」と。
その時は別に怒りを覚えやしなかったし、言われた意味もあまり理解していなかった。
けれど、今。高校三年になり、自分の進路を見つけていかなければならない今だ。何となく、そう言った彼女の言葉の意味がわかる気がする。
所謂柚那はお姫様というポジションで、大方紗八は騎士だ。
騎士とお姫様が同じ人物だなんて物語はない。
私たちは正反対だからこそ、お互いを欲していた。
足りない部分を補うように、補うように。
私にとっても柚那にとっても、お互いが必要不可欠だから。
(でも、もしかしたらこれは単なる私の自惚れで)
柚那が本当に紗八を必要としているとは限らない。
結局のところ、平凡な一学生である紗八には人の心などわかるはずもなかったのだ。
「サユちゃん、帰ろっ?」
この笑顔の裏に何が隠されているかなんて知らない。
何かを隠しているのかどうかも知らない。
私はあまりに無知すぎた。
「でねぇ、アイちゃんがケンくんのこと思い切り殴っちゃって、タッくんが…」
柚那にはその可愛らしさ故か、周りに人がよく集まってくる。
柚那の語る登場人物の名前こそ知っていても、実際どんな人物なのかは知らない。柚那は紗八の知らないところでも、笑っていられるのだ。
それが無性に腹立たしくて、許し難くて、悲しい。
柚那はみんなのお姫様だ。それを一端の騎士が独り占めできるはずもない。
それに、自分がいなくても、柚那にはいずれ彼女自身を護ってくれる人が現れる。
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