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いつの間にか、それが当然になっていたの。
誰かに拒絶されるのが嫌だから、ずっと平気なフリをした。
誰かに嫌われるのが嫌だから、ずっと気丈なフリをした。
弱い私を見せたら、きっと幻滅されるから。
そうしたらみんな、私を嫌うの。
周りに味方はいなくて、私は独りぼっちで、暗い闇の中うずくまる。
けれど、気の遠くなるような闇の中、あなたは、君は。
「柚那ぁ…っ!」
「よしよし」
いつもと立場が逆になった。
べそを掻きそうになっている柚那を宥めるのが紗八だったのに、今泣きじゃくる紗八を慰めるのは柚那だ。
他人に涙を見せたのは初めてかもしれない。お母さんにすら、弱みを見せたことはないかもしれない。
初めて本当に泣けたのは、大事で大好きな"親友"の腕の中。
「っありがと……ユナ」
「ううん!こんなことくらいお安いもんさ!」
柚那らしくない言葉に思わず笑った。「サユは忙しいなぁ」と柚那ははにかんだけど、紗八にしたら柚那の方がよっぽど忙しい性格をしていると思う。
「じゃあ…帰ろうか」
「もういいの?私の胸ならいくらでも貸すよ!」
「はは……、」
―――その瞬間、世界の音が消えた気がした。
向日葵のように笑う柚那の言葉さえも。
「柚那!!」
その身体を突き放して、柚那は後ろに倒れ込む。
「サユちゃ……」
酷く驚いた顔をしていた。尻餅をついた彼女は痛みに顔を歪める。
(ああ、傷つけてしまった)
たった今、救われたばっかりだったのに。
ごめんねの言葉も言えなかった。
静寂を切り裂くトラック音。
掻き消される外野の悲鳴。
身体の痛みを自覚する前に、紗八の意識は途切れた。
―――チリ…ン―――
微かに聞こえた鈴の音を最後にして。
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