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ふいに屋上の開く鈍い音がした。屋上の扉は立て付けが悪く、いつも嫌な音を鳴らす。新たな影が屋上に現れた。
「どうしたんですか? オールディさん」
現れたのはカイン・バラッド。アリスのクラスメートだ。
アリスは涙を拭い、出来るだけ平生と同じように答えた。だが、その声は弱々しく力のないものだった。
「……何でもないわ」
アリスはクラスメートの嘲笑を思い出し、体を強ばらせる。しかし、何故か違和感を覚えた。
「何でこんなとこに来たのよ……」
屋上に来る人は少ない。故に、アリスにとってここが安心出来る場所なのだ。
「あなたと話したかったんですよ」
「何を? 私は話したくない」
アリスは出来る限りつっけんどんに返し、早く帰って貰おうとした。けれど、カインはそんなアリスの思惑を知ってか知らずかアリスの横に来て呟いた。
「僕の夢を聞いてほしいんですよ」
「どんな、夢……なの?」
アリスは夢という言葉に興味を惹かれ、気付いたときには話に食いついていた。早くいなくなって欲しいと思っていたはずなのに。
「全系統を極めることですよ」
「ムリよ!」
反射的に叫んでいた。
縫影術に置いて全系統とは、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎の六系統をさす。系統を極めるとは、縫影獣の最高級である英霊とのコントラクトを意味し、ここまでは種族を極めることとほぼ同義である。
一つにつき、最短の十年で極めたとしても六十年はかかる。縫影術は系統が違えば全く違う学問と言ってもいい。実際、今いる有名な縫影師でも三系統まで、理論上でも相性などの問題から四系統が最大だろうと言われている。なのにカインは全系統を制覇するという。アリスは、正気だろうかと思った。
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