序章

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ここが地獄だと言われれば、間違いなく少年は信じただろう。 荒らされた室内で、大切な人の身体が目の前で引き裂かれて、赤いものを巻き散らしながら崩れ落ちる。 「か…」 ドサリという音を立てて、少年の大切なひとが床に倒れた。 フローリングの床に、見る間に赤が広がってゆく。 「母さん…!」 恐怖で身体が押し潰されそうになりながら、少年は母に縋(すが)り付いた。 「にげ…なさい……」 色を失った唇から漏れる吐息と滴る血液。 少年をかばってくれた母が、彼の目の前で浅く早い呼吸を継いでいるのだ。
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