終章

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空になったカップを見下ろして唇を歪めるその表情は、本人は無自覚でも、はたから見ればとても嬉しそうだ。 沙紀も自然と笑顔になる。 そして、テーブルの上に広げた手紙に、目を落とした。 「今ごろ若子ちゃん、比古くんとよろしゅうやっとるかしら」 手紙の送り主は、『天野』から『安曇』に姓を変えた若子だ。出雲での暮らしにもようやく慣れたと送ってきた。 「私と夕斗のところにも、宮野から手紙がきたよ。あと、詳しいことは若子の義兄(ぎけい)になった安曇から、ゆき……知り合い伝いに聞いた」 雪隆という名前を伏せれば、沙紀が意味ありげな目で見上げてきた。が、当然ながら宮原は無視だ。 「まあ、一般人にはわからない裏の事情や思惑なんかが絡んで宮野たちはよろしくやらざるを得ない立場なんだが……そうでなくとも相思相愛だから、大丈夫だろう」
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