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カチリと、夕斗はナイフを畳んだ。
そして彼は、今の気持ちを押し殺すかのように、それをポケットに押し込む。
夕斗はゆっくりと顔を上げた。
そこには、ずっと直立不動の墓石がある。
今送った少女の墓に目礼して、少年は音もなく踵(きびす)を返した。
彼の母は、2年前に死んだ。
あの時無力だった夕斗をかばって。
当時の夕斗には今と違って戦う術もなく、どうすることもできなかった。
だから、彼を護ろうと戦った母が死んだのだ。
夕斗の母には霊感もあったし、霊と戦う術も持っていた。
けれど、勝てなかった。
だから敵わぬことを知った母は、逃げなさいと言ったのだ。
せめて、夕斗だけでも生かそうとして。
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