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「――本当にいいのですか?」
一つの人影は、もう一つの影に対して訊ねた。
時は夕刻。夕焼けに映し出される二つのシルエットは、黄昏時であることを鮮明に物語っていた。
一人はピチッとした純白のYシャツを着こなし、下にはこれまた清楚なスカートを履いている。
その身なりから、女性であることは間違いないようだ。
対するもう一方の人物は、高価な椅子に腰をかけ、黒いマントのようなものを羽織っている。
若く、まだあどけなさが残るその青年からは、威圧的なオーラが放たれていた。
女性の頬に、一筋の汗が伝う。その表情には、余裕はなく、とても平常心でいる人間の顔ではなかった。
やめると言ってほしい。
女性の心はそれだけでいっぱいになっていた。
しかし、無情にも男性の口から飛び出したものは、女性の望みをいとも容易く打ち砕くに相応しいものだった。
「決定に変更は……ない」
「……はい。分かりました」
女性は小さく、ハッキリと言葉を返す。そして、悔しそうに俯いたまま、女性は部屋を後にした。
「ふふっ……。はははっ」
残された部屋には、不気味に笑う男性の声が響いていた――。
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