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あの後、私は風呂に入って、早めに布団に潜り、魔術の授業の復習をしていたが、今はもう睡魔に勝てずに瞳をゆっくりと閉じたり開いたりを繰り返していた。
電気も消された、暗い部屋。
先程よりも強くなった風は窓を震え上がらせている。
そして、あるとき――私の部屋の窓は『風に似た何か』によって破壊された。
怖い。そんな感情が私を支配する。
「こんばんは!君をさらいに来たよん!」
風に乗って、気持ちの悪い程の猫撫で声が聞こえたかと思えば、そのまま目くらましの魔法を使われ、私は犯人の思惑通りになってしまった。
…担がれている感覚と、この時期特有の生温い風に髪が靡く感覚から、おそらく外に居るのだろう。
抵抗を試みるも、どうやら束縛系の魔法を使われているらしく、身動きが取れない。
数分後、私は何処かの床板に寝かされたらしい。
「船長、こいつを何に使うつもりなんすか?」
「邪魔なんだけど。」
明らかに下っ端の、船員と思われる会話が聞こえる。
という事は、私をさらったのは海賊……。そう考えて間違いなさそうだ。
「バッカだなぁ、お前達は!
今夜の生け贄に決まってるだろう?」
役者がかったこの声は私をさらった、船長のもの。
声から推定すると…若者だろうか。
「すげぇや、兄貴!こいつ、アレなんでございやしょう?」
聞いていて不快になるような厭らしい声の男が私の背中を軽く蹴る。
「…当たり前だ。
さあ、あいつが来る前に行くぞ」
船長と思われる声が、指示を出す。
此処は船上なのか、床板がゆらゆらと揺れ出した。
船長が出発の合図を出す時だった。
呑気な声が聞こえて来たのは。
「大丈夫ですかー?
今そっちに行きますねー!」
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