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満ちるものは何も宙の月だけではない
とても三日月が綺麗に見えたその夜の事でした。
小さな蠕虫が古ぼけたコナラの幹の上を歩いています。
酔っ払っているのではありません。確かにひんやり冷えた樹液をたらふく飲んだ後でしたが、そうではなくて、月影があんまりに暖かいものだからうろうろしているのです。
やがて、誰か二本足の『人』がやって来て、蠕虫の近くに座りました。とても綺麗な少年です。まるで今夜の月のようでした。蠕虫が嬉しくて少年の肩に張り付くと、少年は優しい声で唄を歌い始めました。
どこかで氷魚が跳ねています。
蠕虫は、あんまり気持ち良くてそのうち眠ってしまいました。
そんな素敵な夜から、何日も経った後の事です。
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