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「ごめん、俺、今日ちょっと用事あるんだ」
「何っ!親友の俺との約束を断るなんてっ!!」
多分本人は冗談めかして言ってるつもりなんだろうが、声がバカでかい上に目立つ格好をしているから周りの通行人は引き気味だ。
「いいさ……俺は一人でさすらいの旅に出る………」
何かをぶつぶつと呟いている秋を無視して、紫苑はさっさと歩き出す。
「学校遅刻するよー」
「いいんだ…俺はさすらいの……いや、それは不味い!!」
秋の声を背中で聞きながら、紫苑は放課後の面接に思いを馳せた。
†††
放課後。秋に別れを告げると、紫苑はすぐに指定された駅に向かった。
有名ファーストフード店は直ぐに見つかり、紫苑はその入口の脇で暫し立ち止まる。
ノリでここまで来てしまったが、本当にこれで良いのだろうか。
どこぞの知らない学校のパンフレットを受け取り、中に入っていた紙切れに導かれてホームページを見て。
そして、これから面接をする人のことを紫苑は何一つ知らない。
普段の彼なら絶対にしないことだ。こんな冒険なんて、怖くてできない。
昨日から、自分が何かおかしい。見えないものに、興奮している。
これ、全部嘘かもしれないのに。
冷めた自分が囁いても、興奮した自分は崩れない。
紫苑は、改めてそのファーストフード店の入口を見た。
もしかしたら、ここに入ったらもう戻れないかもしれない。何かの深みに嵌まって、抜け出せなくなるかもしれない。
逃げた方がいいよ。
嵌まってしまうなら、もうそれでもいいじゃないか。何の変化の無い今よりは、ずっとましだ。
それにもしかしたら。
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