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紫苑は、自動ドアの前に立った。
ゆっくりとそれは開いていく。
もしかしたら
もう既に嵌まってるんじゃないか?
「反町紫苑君、だね?」
突然名前を呼ばれた。
驚いて振り向くと、そこには痩身の男が立っていた。
およそ30代の中頃と言ったところだろう。柔らかそうな焦げ茶色の髪に、やはり柔らかい目元。少し大きめの眼鏡をかけている様子は正に物腰の柔らかそうな優男だ。
しかし、そんな男を目の前にして、紫苑は自分の体が強張っているのに気づいた。
男はにこりと笑う。
通常なら人を安心させるはずのその行為に、紫苑は背筋がぞくりとする感覚を覚えた。
やばい。
全身の感覚器官がそう告げる。
この男は危険だ。
笑顔を凶器にするなんて、絶対に正常な人間なら出来ない。
彼は一体、何者だ。
その髪が、目元が、眼鏡が、弧を描いた唇が、彼の外見が全て、彼の中身を裏切っている。
彼は何者…………
答えは一つ。
彼は狂っている。
「そう、です、けど……」
ようやくそれだけ言うと、どっ、と疲れが出た。
その男は、ぞっとする優しい笑顔を浮かべたまま、右手を差し出す。
紫苑には、それが胸を貫く刃物に見えた。
否、良く切れるバターナイフ。
いつの間にか、刺されていたりして……
固まって動かないままの紫苑に向かって、男はこう告げる。
「僕は、明時学園理事長の灰王空。ようこそ、明時学園へ」
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