54人が本棚に入れています
本棚に追加
「普通。そう、普通!!それが重要なんだよ!僕に今必要なのは、普通という要素なんだ!」
「………」
まるで陶酔したように一人で喋りだした空を、紫苑は唖然として見ることしか出来ない。
「僕の愛が更に増していく……満たされるよ。君で……………そう、君で」
異常な空気を身に纏った空に、これまでに無いほどの恐怖を抱く。
空は落ち着いたのか、眼鏡をくっと押し上げると紫苑の方をじっと見つめた。
「明時学園に、入ってくれるね」
いつの間にか、立場が逆転していると思うのは、気のせいだろうか。
明時学園の、普通とは違った雰囲気に惹かれて、入学したいと思いここまで来たのに、逆に入学してくれと頼まれている。
否、この空気は―――
脅迫。
何か底知れない恐怖を感じて、紫苑は思わず席を立とうとする。
変化を求める心の中の自分が、目の前に座る狂人を前にして萎縮する。
しかし、身体は心を裏切り、椅子に四肢を縫い止めたままだ。
何も言わない紫苑に、空は畳み掛けるようにこう言う。
「入ってくれるね?……何て言ったって君は、自らここに来たんだから」
笑顔で繰り出されるそれは軛。
気付いたときにはもう遅い。
枷となってまとわりつく。
もう外せない。
それなら悪足掻きはやめよう。
往生際が悪いのは格好悪い。
もう逃げられないのならば
堂々と頭を上げて言うんだ。
紫苑はポテトを一つ、袋から出して口に入れた。
味わうようにゆっくりと咀嚼。
気持ちを落ち着かせて言うのは肯定の台詞。
「入学………。させていただきます」
空が、満足そうに微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!