悩める少年① 反町紫苑の場合

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「普通。そう、普通!!それが重要なんだよ!僕に今必要なのは、普通という要素なんだ!」 「………」 まるで陶酔したように一人で喋りだした空を、紫苑は唖然として見ることしか出来ない。 「僕の愛が更に増していく……満たされるよ。君で……………そう、君で」 異常な空気を身に纏った空に、これまでに無いほどの恐怖を抱く。 空は落ち着いたのか、眼鏡をくっと押し上げると紫苑の方をじっと見つめた。 「明時学園に、入ってくれるね」 いつの間にか、立場が逆転していると思うのは、気のせいだろうか。 明時学園の、普通とは違った雰囲気に惹かれて、入学したいと思いここまで来たのに、逆に入学してくれと頼まれている。 否、この空気は――― 脅迫。 何か底知れない恐怖を感じて、紫苑は思わず席を立とうとする。 変化を求める心の中の自分が、目の前に座る狂人を前にして萎縮する。 しかし、身体は心を裏切り、椅子に四肢を縫い止めたままだ。 何も言わない紫苑に、空は畳み掛けるようにこう言う。 「入ってくれるね?……何て言ったって君は、自らここに来たんだから」 笑顔で繰り出されるそれは軛。 気付いたときにはもう遅い。 枷となってまとわりつく。 もう外せない。 それなら悪足掻きはやめよう。 往生際が悪いのは格好悪い。 もう逃げられないのならば 堂々と頭を上げて言うんだ。 紫苑はポテトを一つ、袋から出して口に入れた。 味わうようにゆっくりと咀嚼。 気持ちを落ち着かせて言うのは肯定の台詞。 「入学………。させていただきます」 空が、満足そうに微笑んだ。  
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