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千葉北警察刑事課は、3人の刑事がそれぞれがそれぞれに、好き勝手な行動を取っている。
酒出警部補は、定位置である応接セットのソファーに座り、右手の人差し指をこめかみに据えて、そこを弾くというルーティーンを続けている。
その様子から、未だ事件の本質に辿り着いていないようだ。
それは、彼の指が語っていた。
一定のリズムを刻んでいるが、推理が進行しているような軽快さが無い。
それでも、それを松本刑事はうっとりとした目で見詰める。
「警部補……」
時折うわ言のように発する言葉も、その形の良い唇からならば注意される事もなかろう。
そして、一番の問題は酒口刑事だった。
刑事課の中を徘徊老人のように、ウロウロと歩き回っては悲観してみたり落ち込んだり、立ち直っては資料に目を通していたりする。
端で見ていて、忙しない事この上ない。
「有実……」
その原因は数十分前にもたらされた、彼女である大槻 有実からの電話であった。
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