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男は、ホームの反対側にたどり着くと一旦足を止めて、有実の方を伺うような仕草をしてから走り去った。
但し、伺うと言っても顔を向けた訳じゃなく、視界の端で有実が追って来ないか確認した程度だった。
酒出は、その話しに強く興味を示した。
「そこまで、はっきりとした動きだったのか?」
「そう言われると自信が無いですけど、私も津田沼で降りて少しの間、その人を見てましたから何と無く……」
酒口が、堪らず口を挟む。
「なぁ、有実。僕に話した時には、そんな事まで言ってなかったよな?」
「そんなの当たり前だって、話しを聞かなかったのは孝也の方じゃない」
「えっ、そうだったけ?」
それを聞き、酒出と松本は溜め息を溢した。
酒口に聞き込みや事情聴取を任せたら、必要な情報の何割を聞き逃すのだろうかと、そんな意味合いの溜め息だった。
「まぁ、あれだな。彼女の方が、お前よりも観察眼が確かで刑事に向いているのが証明されたな」
「酒出さん、そりゃ無いですよ」
酒口が泣きを入れる。
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