第五章 殺害動機

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   酒口の彼女である話しは、この場では伏せられたが有実と野口が口論していた事実は、警察は惑わされてしまった。  目撃者の男性は口論していたと言い、有実は絡まれそうになって逃げたと言った。  その食い違いは、見る側の受け取り方と判断された。  そして、その後の足取りが無いまま野口は、遺体として新川の川原で翌朝に発見される。 「ここで、仮定の話しを聞いてくれ」  酒出は、立ち上がり長机の周囲をゆっくりと歩きながら、事実でも語るかのように仮定の話しを始めた。 「野口は、兄さんと打ち合わせの後ホシに拉致され、大量の酒を飲まされた。つまみは、ピザを中心としたイタリアンだった」 「拉致しておいて、酒を飲ませてつまみまで出したんですか?」  富永は、酒出の仮定にいきなり疑問を投げ掛けた。  これから殺害しようとする相手に、酒を飲ませて食事までさせるのは、不自然だろうという考えからの否定であった。  だが、酒出は少しも動揺しない。 「ホシが野口に酒を飲ませたのには、二つの意味があるんだろう」
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