カナリア 1

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 日曜日、僕は久しぶりに、車庫から「ヴェスパ」を引き出した。  郊外のショッピングセンターに行こうと提案したが、彼女は、人混みが嫌だと言った。  オールド・シティの外れに、先輩の店がある。靴屋を引き継ぎ、今では新街区からもお客が来る、セレクトショップ、だ。  歩いていくには、ちと遠い。  ヴェスパに跨がって待つ僕の前に、ミミは、スカート姿で表れた。 「クローゼットに入っていたの」  ヴェスパで、後ろに女の人を乗せる?  僕の好きな古い映画のようじゃないか。  ねえ、ミミ。  貴女は何処から来たんですか?  免許証の住所は、ここから随分と遠い場所だった。  裸足でここまで歩いて来たの?  問い掛けられない僕の気持ちに気付くふうもなく、彼女は柔らかな体を押しつけてくる。  何時迄僕は、無害なままでいられるだろう…。 「彼女?」  靴を選ぶミミを見て、先輩が聞いてくる。僕が厳かに、 「バイトの方です」 と答えると、胡散臭げな顔をする。 「まあいいや、お前のとこも、商売繁盛になるといいな、何時も、じい様方がたむろしてるもんなあ」  ミミをみながら、そう言った。  彼女が買ったのは、シンプルなぺたんこ(バレーシューズというそうだ)の、靴だった。  帰り道、僕らははしゃいで、古い町中をヴェスパで回った。  おんぼろヴェスパは、悲鳴を上げる。 「そこのスクーター、停まりなさい!」  パトカーに見つかって、反則切符を切られても、僕らは楽しかった。  この事が、終わりの始まりとも知らず…。  安ワインに残りモノ料理。他愛ない話に笑いこけた、浮かれた日曜日の終わり。  階段を上り、屋根裏の自分の部屋に迎う時、きちりと何時も扉が閉まっているはずの、ミミが居る客間の扉が僅かばかりに開いていることに、気付いた。  開いているのだ。  だから僕は、そっと、その扉を開けた…。
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