4人が本棚に入れています
本棚に追加
ミーンミーンミンミンミン……
木に止まった蝉がうるさく鳴く季節。
アスファルトは太陽光を浴び、遠くを見るとかげろうのようにゆがんで見えた。
昨日の雨に濡れていた桜の木も、真昼になるとすっかりと乾き、鮮やかな緑色を透かして揺れている。
公園の中で上を向いていた俺は、額に汗を流しながらため息をついた。
「毎度毎度こう暑けりゃ、日射病になって幻聴が聞くこともあるんだな……よし、帰ろう」
「そこっ、現実逃避しないで現実を見るのだ!」
生意気そうな声が上部から響く。
「いつまでも見てないで、さっさと我が輩を助けるのだぁぁあああ」
木の上でフルフルと体を震わしながら俺に向かって話す‘それ’は、奇妙な姿をしていた。
体こそ比較的小さいが丸っこい姿をし、まっ白な縮れた毛で覆われ、側頭部には左右ごとに螺旋形の角をもっている。
言うなれば──ゲームセンターのクレーンゲームによくある、羊のぬいぐるみのようなもの。
「我が輩は羊じゃなく猫なのだぁぁああああ」
うおっ、心を読みやがったぞこいつ。
「ここは本当に怖いのだ!! 早く助けてへるぷみぃぃい」
……あぁ、なんでこんなやつに出くわしてしまったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!