我が輩は猫である

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ミーンミーンミンミンミン…… 木に止まった蝉がうるさく鳴く季節。 アスファルトは太陽光を浴び、遠くを見るとかげろうのようにゆがんで見えた。 昨日の雨に濡れていた桜の木も、真昼になるとすっかりと乾き、鮮やかな緑色を透かして揺れている。 公園の中で上を向いていた俺は、額に汗を流しながらため息をついた。 「毎度毎度こう暑けりゃ、日射病になって幻聴が聞くこともあるんだな……よし、帰ろう」 「そこっ、現実逃避しないで現実を見るのだ!」 生意気そうな声が上部から響く。 「いつまでも見てないで、さっさと我が輩を助けるのだぁぁあああ」 木の上でフルフルと体を震わしながら俺に向かって話す‘それ’は、奇妙な姿をしていた。 体こそ比較的小さいが丸っこい姿をし、まっ白な縮れた毛で覆われ、側頭部には左右ごとに螺旋形の角をもっている。 言うなれば──ゲームセンターのクレーンゲームによくある、羊のぬいぐるみのようなもの。 「我が輩は羊じゃなく猫なのだぁぁああああ」 うおっ、心を読みやがったぞこいつ。 「ここは本当に怖いのだ!! 早く助けてへるぷみぃぃい」 ……あぁ、なんでこんなやつに出くわしてしまったのだろうか。
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