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――その日は、とても寒い日だった。
歩く度に向かいから突き刺すような冷たい風に、少女はたまらず身を縮めた。
(早く帰りたい…)
その理由は、ただ寒いから、それに尽きる。
少女が早々と足を進めていれば、不意にブレザーの胸ポケットが震えた。
一瞬寒さから体が震えたのだと思ったが、すぐに携帯だと理解した。
それでも少女は足を止めただけで、携帯に触れなかった。
「――…やっぱり帰りたくないかも」
少女の口から零れた呟きは、白い吐息に溶けて昇る。少女はしばらくそれを見つめ立ち止まっていた。
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