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満開を迎えた櫻の樹…
南雲は、弁当屋のバイト仲間で催す花見の場所取りという大役を担っている。
くじ運が普段は滅法強いはずの南雲は、場所取りに当ってしまった。
三月下旬のうららかな陽射しが南雲を包む。
南雲は缶コーヒーを飲み干した。
河川敷の桜並木には、まだ誰もいない。
それもそのはずだ。
今日は平日、火曜日の朝である。
よほどのことがないかぎり場所取りなんぞ必要なかったのではないかと思いつつも南雲は、ばさばさと音をたててブルーシートを拡げる。
「ソコ、ジメン、ワルイ、アト、サンボン、サキ、イイ、ジメン」
微かな声が聞こえてきた。
「何で?」
すかさず南雲は答えた…応えさせられた
「ジメン、ワルイ、サンボン、サキ」
微かな声は繰り返す
ざわざわと風が吹き、櫻の古木が不気味に揺れる。
南雲はブルーシートを畳み三本先の少し花の少ない樹の下に陣取る事にした。
南雲恭平は、平凡な22歳である。
高校を卒業して、就職するが長く続かずフリーターをしながら自分探しを続ける平凡な22歳である。
ただ非常に霊感が強い。
道を歩けば交通事故現場の無念な霊を見たり、山や川に行けば動物霊や自然エネルギーの塊に出くわしたりもする。
南雲は、霊感を持て余している。
「クレームだなこりゃ」
枯れかけた櫻の下で南雲は顔をしかめる。後から来る仲間に説明したところで理解はされないだろう。
南雲恭平は、他人から理解されない、また理解できるとも思っていない。
確かにいまここで自分が見聞きしたものを学校の教師や両親は
「くだらない」
「ありえない」
「構ってほしいからって嘘をつくな」
と叱り付ける。
友人からも理解されたことはない。
南雲恭平は、孤独だった。
しかし、それを歎く間もないくらいに人が幻と呼ぶ霊やエネルギーの塊は南雲を取り囲んでいた。
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