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すると、斎藤さんの表情が険しくなった。
そして、
「…ミノリ…ミノリ…」
また、かすかにつぶやいた。
とても、悲しそうな顔をしている。
ミノリ…って…一体誰なんだろう?
しばらくうなるようなったあと、斎藤さんは目を開けた。
ガバッと起きあがると、僕を見ておどろいたような顔をしている。額には汗をかいている。
「…大丈夫ですか?」
心配になって考えるより先に言葉が出た。
斎藤さんは、何かハッとしたような表情をしたあと、目を伏せた。
「…俺……なんか寝言言ってたかな…?」
そのままそうつぶやくように聞いてきた。
とっさに僕は、
「…いや、別になんにも…」
そう口から出ていた。
「…ごめん、…ちょっと顔洗ってくる」
そう言うと斎藤さんは車を降りていった。
…聞いちゃいけないんだ…。
つらそうな顔をした斎藤さんを見て、とっさにそう思った。気にはなるけども、聞いちゃいけない。そう思った。
つけっぱなしのラジオからは、この雰囲気に合わない明るいポップな曲が流れていて、なんだか余計に悲しい気分になった。
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