僕が乙女になった時

バイト初日

事務所を出て歩き始める。

｢あ、あの…何するかよくわかんないんですけど…｣
そう言うと、斎藤さんは聞き取れないかと思うほどボソボソと、説明をしてくれた。
教えられた作業は至って単純だった。
10時、13時、15時と１日３回、ビルの様々な場所ごとの、大気中の粉塵や温度や照度などを調べて表に記入する。それだけ。
運ぶのは台車一台だし、助手がいたら便利だけど、がんばればひとりでもできそうな仕事だ。
実際僕は機械の準備と、言われた数値を表に記入していくだけだった。大体3、40分でビル内全ての測定が終わる。

「間の時間は何してたらいいですか？」
最初の測定が終わって片づけながらそう聞くと、

「…別に何しててもいいよ」

と言われた。
つっけんどんな答えだなあ…なんか悲しくなってくる。

「とりあえず昼で混む前にメシに行こう」
また僕の顔を見ずにそう言うと、くるっと背中を向けてノシノシと歩き始めた。