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入学式は、滞りなく終わった。
……相変わらず、父さんは来なかったけど。
「仕方ないわよ。ほら、お父様は今、会社が……」
ケータイの中のリリが小言で言う。
僕は鼻を鳴らした。
「分かってるし、別に気にしてもいないよ」
クラスメートには小学校から一緒だった連中もいたが、学区が広がったせいで知らない顔がほとんどだった。
珍しく、僕も新鮮な気分になる。
式の後のHRでクラスメートの自己紹介が終わると、担任が言った。
「えー、午後からは生徒会主催の『新入生歓迎会』があるそうです。ということで、この後は体育館に集合して下さい」
担任が出ていくと、教室はざわざわと賑わいだす。
誰も彼もが新しい友人を作るのに夢中だった。
「ほらほら、シキ。早く友達作らないと乗り遅れちゃうよ」
リリがこっそりと、小馬鹿にするように言う。
「うるさいな……黙ってろよ」
しかし、僕はもともと積極的な性格ではない。
何となく手持ち無沙汰なまま、席に座っていると、見知らぬ生徒から声がかかった。
「オッス!」
そいつは、少し茶色がかった髪をしていた。
明らかに人為的な色だ。
……入学早々、随分と気合いの入った奴だな、と思いながら顔を上げる。
満面の笑みが飛び込んできた。
「席、だいぶ御近所さんだな。ま、よろしく頼むぜ」
「え、ああ……」
「俺、春日。春日ナオタってゆーんだ。よろしくな」
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