桜の下で待ち合わせ

「あ、あの」

道行く人に尋ねてみても、誰ひとり、振り返る者はいなかった。人々はただ前を向いて歩いている。どうやら私は誰とも話せないようだ。しかし漠然と、失くした記憶はもう戻らないのだろうと感じ始めていた。
十五人ほど無視された辺りで通行人に話しかけるのは諦めた。

それからというもの、私はぼんやりと通りを眺めて過ごした。たくさんの生きた人間の中、私はひとりぼっちで漂っていた。