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ボスの元に向かう道すがら…
張が清四郎に話し掛けた。
『あの事件から…もう一年近くなりますかね…あのお嬢さんは…お元気ですか?』
『ええ…美奈子さん、今は普通に暮らしていますよ。たまに僕の所にも来ますね』
『そうですか…そりゃ良かった』
張は男くさい笑顔を見せた。
『ところで…あの時の主治医の方…揚さんでしたか…彼は?』
『ああ、あの先生なら…今は独立して開業していますよ。貧乏人相手に金も取らずに診察しているって話でしてね…
ああ…俺にゃ無理だ。立派なもんですよ』
『善意の医師…ですね。たいしたものです』
清四郎の言葉に張は頷いた。
彼らを乗せた車は…上海の市街地へと入って行った。
そこは…悪く言えば雑然。良く言えば活気に満ちていた。
道を歩く人々の人種も…中国人や…租界に住む、フランス人やイギリス人など…バラエティーに富んでいた。
清四郎は、この雑然とした空気が好きだった。
『そう言えば…李大人の住居は…前と変わりないのですか?』
清四郎はふと、思い出したかの様に言った。
『ええ…新世界ホテルの最上階で…あ、見えてきましたよ』
車は真っすぐに、そのホテルを目指して行った。
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