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なんの躊躇いもなく伸ばされた祐樹の手を実弥は叩き落とし、卵焼きを皿ごと遠ざけた。
「ひでぇの」
「何であんたこんなとこにいるのさ」
一部始終を見ていたらしい母の楽しそうな笑い声は、付けっ放しのテレビの音に掻き消された。
祐樹は、そんな彼女に笑みを返しながら、お迎え、と言う。
「朝練ねぇんだって、さっきメール来た」
「試合近いのに」
わざわざ開いて見せてくれたメールには、『朝練中止』の四文字のみが表示されていた。
なんとも簡潔な文面である。
そうだろ、と祐樹が笑った。
「何がよ」
「顔に感想書いてあるし」
なにやら馬鹿にされたように思えた実弥は食べるペースを上げた。
話している間は箸を止めていたため、茶碗の中身も御菜の量も減っていない。
そんな様子を無言で眺めていた祐樹に、母が卵焼きを差し出した。
「意地悪しちゃダメよ」
驚き、箸を止めた実弥に小さく笑った母が、御飯もいるかしら、と祐樹に問う。
「すみません、頂きます」
「二人とも早くしないと遅刻しちゃうわよ。でも、喉に詰まらせないようにね」
「ちょ、何で私にだけ言うの」
笑う祐樹を肘で小突きながらのそれに、母は答える代わりに意地の悪い笑い声を残して去っていってしまった。
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