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    校門を走り抜け、五、六段の階段を一気に上り、自分の上履きを引ったくるように取り出す。 運動部とはいえ、それなりの距離を全力疾走すれば息も上がり、心臓はまさに早鐘の如く煩くなっている。 「後で直しなよっ」 先に駆けていった祐樹が実弥を一瞥して言った。 主語が抜けているが、実弥には髪を指しているのだと分かった。 ミディアムの黒髪は、今までの全力疾走でワイルドさを醸し出していた。 「分かってる!」 手櫛で申し訳程度に整えてから、実弥も自分の教室へと向かう。 祐樹の教室はフロアの一番端だが、実弥の教室は階段を上ってすぐの所にある。 下駄箱に飛び込んだ際に本鈴が鳴り始めてしまっていたので、実弥は急ぐ気を無くしていた。 朝っぱらから、しかも朝食を食べてすぐの全力疾走によって、些か気持ちが悪くなっているのも理由の一つである。 「よっくもまぁ、走れるわ」 見たところ、祐樹は上履きを履くことなく階段を駆け上っていた。 事実上、駐車場から教室まで走り続けたことになる。 これが男女の違いかと思ったら、知れず眉根が寄った。    
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