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    その内、実弥の肩を越えて丸められた紙がやってきた。 ――髪やばいよぉ(笑) ルーズリーフのど真ん中に赤いマーカーでそう書かれていた。 なんという紙の無駄遣い、と思いながらも暇を持て余す実弥は誘いに乗った。 ――なかなかカックイーだろ(笑) ――どこが(笑)ホームレスみたい ――ホームレスに謝れし。しかし櫛持ってねぇとかなかなかやばくね? ――んじゃあ今日は一日ホームレスか やり取りしている相手、紫穂は中学も同じだった長い付き合いの友人だ。 その友人も、実弥と同じくバドミントン部に所属していて、今現在の実弥の心情を知っている。 知っていて、敢えてその話題を振らないのは彼女の気遣いだ。 そして、自らその話題を振ってくるのを待っていてくれていることに、実弥は気付いていた。 過去を蒸し返されることを嫌う実弥を、紫穂は熟知している。 ――もうすぐ終わりだね 時計の長針は、この退屈な授業が残り五分で終わることを示していた。 なんてことのない一文に、実弥は苦笑した。 そして、こう書いておく。 ――お気遣いどーも。部活には持ってきたくないから、いつも通りにしといてね 紙を開いた紫穂の視線が実弥の背中に向けられた。 すぐさま返ってきた紙には ――お昼どうする? 了承の意は書かれていなかったが、それと受け取っておくことにした。 時計を見上げる。 終わるまで残り一分もなかった。 わざわざ手紙を書くこともない。 「今日は別で。適当に言い訳しといてよ」 「ええー」 紫穂のブーイングを躱すように、実弥は教室を後にした。 「……あれさえなければいい子なのにぃ」 そんな紫穂の呟きを、まさか実弥が聞いているわけもなかった。    
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