HARMONIA

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今、店内にいる全ての人間(能力者)が大きな笑い声をあげている。 青年の背後に立つ二人も、手を叩き、腹を押さえて笑い続けていた。 「こいつ、“神”を捜しているんだとよ!?」 「自殺願望でもあるのかぁ!?神に会えば、願いを叶えてくれるとでも思ってんのかよ!?」 笑いの渦から出てくる言葉は、青年を嘲笑するものばかり。 しかし、彼は表情を変えなかった。 ジッと店主を見つめ、放った質問の答えを待つ。 だが、 「ギャハハハ!面白れぇガキだなぁ!?」 背後に立つ男の一人が、青年のフードを掴んで強引に彼を立たせる。 そこで、彼の容姿が明らかになった。 黒い髪、まだ幼い童顔。 そして、照明を反射する真紅の瞳。 それを見た店主は背筋が寒くなるのを感じた。 と、同時に、フードを掴んだ男が大きくふき飛ばされた。 青年は、少しも動いていない。 続いてその場に立ち尽したまま、もう一人の男を、逆の方向へふき飛ばす。 「俺は、あんたに質問してるんだ」 カウンターに手をつき、真紅の眼で店主を睨みつける。 店内は再び、静まり返った。 笑い声はピタリとやみ、次の瞬間には怒号へ変わる。 しかし、 「うぁあああああ!」 「ぎゃあああああ!」 ふき飛び、床に倒れていた二人の男が、激しい炎に包まれる。 それを見て、他の客達は黙り込んだ。 青年に逆らおうなどとは、もはや考えもしない。 「ゼウスを捜してるんだ」 青年はもう一度、同じ質問を投げかける。 すると店主は、 「元ニューヨークの中心に、“オリュンポス”と呼ばれる山がある。瓦礫や建物を組み建てて造った、神の創造物だ」 「・・・ありがとう」 青年はリュックを拾い、店主に背を向けた。 炎に包まれた二人は、もがきながらその人生を終えようとしている。 「待て!」 店の出口に向かって歩き始めた青年を、店主は呼び止めた。 「神に逆らい、生きていた者はいないぞ?」 「構わないさ」 足を止め、言葉を放つ青年。 店主はなぜか、彼に特別な興味を抱いた。 「名は?」 質問を受けた彼は、再び歩を進める。 「タバネ・スティングス」 そして名を名乗り、荒廃した世界へ消えていった。 ――――終
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