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陽気な音楽が、雑音を混ぜて店内に響いている。
そこへ、勢いよく扉が開く音が飛び込んだ。
中には結構な数の客達が飲み食いを楽しんでおり、店主らしき中年の男は奥のカウンターでグラスを拭いている。
青年は扉を閉めることなく、店内を進んだ。
店の空気に似合わない彼の登場に、店内は静まり返る。
ガラの悪そうさ客がニヤニヤと、煙草をくわえて彼を睨んでいた。
そんなことは気にせずに、青年はカウンターの椅子に腰を下ろす。
白いリュックを床に置き、フードはとらずに店主の方へ顔を向けた。
「ご注文は?」
小太りの店主は怪訝な表情を浮かべるも、拭いていたグラスを棚に戻す。
だが、青年は一向に何かを頼む気配を見せない。
すると、
「おい、ここはガキの来るところじゃねぇぞ?」
「早く帰りな。この店は今、貸し切りなんだ」
二人の男性が、わけのわからないイチャモンをつけてきた。
もちろん、貸し切りなどという制度はない。
さらに、この荒廃した世界では、何歳から何を飲もうと罪に問われることはなかった。
それでも、二人は青年の背後に立ち、言い掛かりをふっかけてくる。
しかし、彼は意にかさず、店主に向けて口を開いた。
「ある男を捜してるんだ」
爽やかな声が、雑音混じりの音楽と共に店内を駆け回る。
発言を無視された二人は眉を潜めて青年を睨むが、彼はさらに続けた。
「“ゼウス”と呼ばれてる男だ。知っているだろ?」
そこで、店は静寂に包まれる。
音楽だけが鳴り響く店内。
そして、次に発せられたのは客達の大爆笑だった。
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