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「我が命、一時で終る。…我が魂を宿にせし…契約の精霊よ…汝らを…彼らに継承する…」
ヒトは言葉を紡ぎ終えると三人の手を順々に触れていく。
人間ではないが、その手からは人間と同じ温かさを感じられた。
「すまないな…。こんな…物を押し付けて…」
言葉とは違い、ヒトは暖かい目で三人を見つめ微笑んだ。
しかし次の瞬間には手で口を押さえ、咳き込み視線を地に落とす。
その手は血に染まっていた。ヒトは手を見つめ何かを思い耽ている。
「……疲れたな。……やっと………眠れる。」
ヒトの声は霞みほとんどが聞こえない。目は虚ろになり木に寄り掛かっていた体が力無く地に落ちる。
「……シジュ…先立つ…兄を許してく…れ…。もう一目…だけ……あい……たかった……。しあ……わ……せ…………に…………」
言葉の途中で、薄く目を開けたままで、ヒトは動く事を止めた。
その瞳からは一筋の涙が流れていた。
「……」
優はただそのヒトを見ていた。刹那は何故か涙が止まらない。空華は目を反らす様にどこか遠くを見ていた。
どれくらい立ち尽くしたのだろうか。
辺りに夕焼けが近づき始めた頃に三人は静かに町に帰った。
帰る中で誰一人、会話をしようとする者はいなかった。
その後、町に帰った三人は見てしまった事実を大人達に伝えた。
そして大人達を連れあの場所へ向かう。
しかしあの場所に着くことはなかった。あの場所の空が、夕焼けではなく赤く染まる。
原因不明の山火事が起こった。三人は立ち尽くし燃える山を見つめていた。
結局大人達には悪戯と捉えられた。そして、あの場所に近づいたことを怒られる。
しかし何より火事に巻き込まれなくてよかったと、それだけ言われただけであった。
三人は親に引き連れられ各家へ帰って行った。
同時刻のあの場所で輝く何かがそんな三人を見ていた。
「まだシェマの者達にアザルや僕等の存在を認めさせるのは早いからね」
それはヒトでもなかった。
しかしとても美しい存在。
誰にも知られず呟き、そして光る体が粒となって消えた。
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