桜月と妖狐

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時は夕暮れ。 あれから6年という短い歳月が経った。 しかし、退屈していた妖怪たちへの変化はある。 時期は秋。 まだほんのりと日差しの強い昼間と違って、夕暮れ時はとても涼やかだった。 海のように、一面稲穂色をしたススキが風で同じ動きをする。 月が大きく見える神無月。 草履を履いて、ススキの中を走り回る小さな小さな女の子が、ススキを両手にしていた。 (桜月、桜月。危ないから走らないで) 男物の大きな着物を纏った小さな女の子は、その凜とした声音を聴いてぴたりと走るのをやめた。 腰まで垂らした漆黒の黒髪は、艶やかに風が弄ぶ。 「みかどさま~!」 振り返る幼き娘は、ふにゃぁっ~と泣き顔を見せて山神さまの元へ駆け寄った。 衣を纏い、紙面をした山神さま。 美しい稲穂色の長髪を一つに束ね、裾に手を入れながら娘を見下ろしていた。
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