桜月と妖狐

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そんな山神さまは、人間らしく人間の娘に固定名詞を呼ばせることにした。 “御門(ミカド)”と付けた。 妖怪たちは様々な呼び方をするため、毎度桜月が困っていたためだった。 とは言っても、桜月と会話することなんて少ない。 ただ、何かと言って桜月は御門に泣き付いて来る。 愛らしい娘だから良いものの、毎度のように妖怪との宴会を怖がった。 妖怪が桜月をからかったりするのだが、妖怪もそれなりの愛情表現に等しいかもしれない。 あの赤子を育てると言ったあの日から、妖怪たちは猛反対していた。 それでも、あのまま人里に置いて行っても誰も拾いやしないだろう。 米も芋も採れない村には、自分たちだけで精一杯だったからだ。 そんな村に赤子を置けば、確実に弱って死んでいただろう。 .
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