狐の祭囃子

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人間の子供が最近、川から流れてくるのを眺めるのが多い。 それも、人間たちが山神さまに供物を捧げなくなってしまったせいだった。 穀物類を主祭とする神の稲荷神。 力の蓄えもなくなりつつある山神さまは、そんな人間たちを見守ってやることしかできない。 荒れ狂う土地には、米や芋が収穫できずに子供を殺すことしか手立てはない。と、赤ん坊に濡れた和紙を顔に乗せて窒息させたり、川に流したりする。 そんな人間たちの醜さを度々見た。 山神さまは赤子を抱き上げ、弱り切った赤子の額に手を添えた。 (随分弱っているな‥。生まれて間もなく何も口にしていないのだろう) 泣きもしないその赤子はぐったりとしていて、今にも死んでしまいそうだった。 意を決するように山神さまは赤子を抱きしめる。 (この赤子は僕が貰い受ける。名は‥オヅキ‥桜月と名付けようか) 桜舞う朧月夜を見上げた若い山神さまは、静かにそう名付けた。 .
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