第一話 珈琲と本

3/8
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「お待たせしました」 マスターは私の前に白いカップを置く。 中には何にも混ざらない黒。宇宙を連想させる漆黒。 そして、気品高い芳醇な香り。 炒りたての厳選された豆を使用している証拠だ。 一口。 「美味しい」 苦みのなかに深い味わい。 これこそが至福の一時。そう、私は思う。 「いつもと変わらない、この最高の味。私はこの店を見つけることができて本当に嬉しいんだ」 「恐縮です。 お客様、お喋りにお付き合いしていただく時間はありますか?」 始まった。 いつもの事件物語を語ろうとしているのだ。 「もちろんですよ」 「これは、私が若かった頃の話なんですが……」 静かにだが明瞭な口調で話し始めた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!