第二章

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強く、強く願った。 帰りたい―‥と。 しかし‥ 何も起きなかった。 ―‥そりゃ、そっか。漫画やおとぎ話の中じゃないんだから、そう都合よく思い通りになるはずないのに。‥じゃあ、どうすれば? 考えたが、全く思いつかない。まず、身体が無いのだからどうしようもない。 ―‥身体?? 椿はふと考えを止めた。 ―‥身体が¨無いから¨何もできない?じゃあ、身体が¨あったら¨‥‥? 妙な感じがした。¨身体があったならどうにかなる¨。 ―‥本当に? 椿はまた瞼を開けてみた。今度は、¨感覚¨ではなく確実に。 ―‥黒い。 つい先ほどと同じように漆黒の闇だった。 ―‥大丈夫。これは、ちゃんと眼に写ってる¨黒¨。私は見えてるんだ。じゃあ、今度は手があることを考えよう。 椿は自分の手を強く握りしめるように力を込めてみた。 ぎゅっと四本の指が親指に押さえつけられ手のひらに爪が食い込む感覚がしっかりと伝わってくる。とたんに自分の内側から力が湧いてきた気がした。 ―‥指、動かしたのいつぶりだろう。 そんな小さなことで感動してしまう。 ―‥よし。じゃあ、次は足だ。 椿は、足の付け根から膝、かかと、つま先と細部に致まで神経を走らせてみた。とても不思議な感覚だった。まるで、粘土でとても精密な人形を作り上げているような、そんな感覚がしていた。 ―‥歩けるかな?? ふと、不安になる。一年も体を動かしてないのだ。椿は恐る恐る右足を持ち上げ前へ踏み出してみた。 ―‥っ! 一瞬、身体がぐらっと揺れた。平衡感覚がうまく掴めない。今度は左足を前へ出してみた。まるで赤子が初めて歩き出した時のように、頼りなくふらふらと足を踏み出す度に身体が揺れる。 そんな自分の光景を思い浮かべ滑稽に思えてきた。 ―‥17歳にもなって、こんな歩き方しか出来ないなんて。 椿は苦笑いした。 ―‥ここが何もない空間でよかったかも。もし、生きていたあの場所で身体が回復してリハビリを始めたとしたら、こんな笑える姿になっちゃってたんだし。ましてや、八神先生になんて見られたくないよ‥。 椿の中のプライドはこんな状況下でも働くらしい。   その後、何度も転びそうになりながら歩く練習をし、少しずつ身体の感覚を戻していった。 ―‥ふぅ。なんとか、身体が動かせるようになってきた。まだぎこちないけど、そんなにふらつかなくなったしね。
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