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「‥―椿。今日はとてもいいお天気よ。」
窓際にいる長い黒髪の女性が、病室のベッドに横たわる少女に話し掛けた。少女は聞こえていないのか返事をしない。
「ほら、今年も桜が綺麗に咲いてるわよ。―‥もう春ねぇ。」
呟きながら女性が窓を開けると春の温かな風が病室にふわりと入り込む。
その柔らかな風に頬を撫でられた少女はうっすらと眼を開いた。
「あれから―‥。椿の入学式から、もう一年が経つのね。」
ふと、悲しそうな瞳をする女性。
少女はそれを黙ってじっと見つめる。その視線に気づいたのか、女性はすぐに笑顔を取り戻しベッドに近付いた。
「やあねぇ、お母さんったら。しんみりさせちゃってごめんね。色々‥思い出してたのよ。」
椿の髪を優しく撫でる。女性と同じ黒くて美しい髪を。
その時、コンコンと部屋をノックする音がした。
女性は顔を上げ扉の方へ視線を送る。
「どうぞ。」
声とともに扉が明き、スーツ姿の男が部屋に入ってきた。靴もしっかりと磨かれていて、薄いブルーのシャツと深い紺色のネクタイが彼の清潔感をより一層引き立たせている。その男はゆっくりと部屋に入り、ベッド横にある椅子に静かに座った。
「椿の様子はどうだ?」
少女を見ながら男は女性に聞いた。
「もちろんいいわよ、あなた。今日はいつもより調子がいいのよねぇ、椿?今、ちょうど桜が綺麗に咲いてるって話ししてたところなの。」
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