第一章

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「お母さん、落ち着いて。―‥大丈夫です。今から治療を始めますから。」 八神は雪子をなだめるように、視線を雪子の高さに合わせ瞳をじっと見て言った。 「でもっ‥―、でもっ!」 雪子はなおも落ち着きを取り戻せないでいる。 「雪子!大丈夫だ。先生に任せよう。な?先生は一年前も椿を助けてくれたじゃないか。」 雪子の肩を抱いて部屋の隅に連れて行った。治療の邪魔にならないようにするためだ。 その様子を確認した八神は、一呼吸置いて看護士たちに声を掛けた。 「血圧はいくつですか?体温の測定もお願いします。」 「血圧、70の36です。体温測定今から行います!」 看護士たちがバタバタと病室内を走り回る。 「―‥酸素用意してください。」 脈を測りながら八神が難しい顔をして言った。 ―‥脈が異常に速い。個人差はあるものの通常一分間に70~80くらいが普通だが、今の椿の脈は‥‥‥250。 この一年、何もなかったのに今更どうして‥。いや、何もなさすぎたことが異常だったのかもしれない。 「先生!心電図取れました。」 八神は心電図の計測結果を受け取った。 「‥頻拍?何がきっかけで‥―?」 八神は眉をひそめる。 発作性のものだとしても、そうでないにしても、この速さで脈を打ち続ければ椿の命に関わるだろう。 心臓が速くなる分、心臓への負担が大きくなるのだ。そして、心臓に負担がかかるだけでなく、脳への酸素供給率も低下して意識障害を起こしかねない。 「リドクイックを入れます。準備を!」 「はい!急いで持ってきます!」 看護士が駆け足で病室を出て行った。 「―‥先生、椿は‥?」 義樹が不安そうに八神に問い掛けた。 「椿さんは何らかの原因で、不整脈を起こしているとみられます。しかも頻脈で、通常一分間に70~80回の脈数が今の椿さんは一分間に250回も脈打たれてしまっているんです。発作が起こっている原因がわからない以上、詳しいことは調べてみないとわかりませんが、今の状態は身体に負担が掛かりすぎていてとても危険な状態です。」 八神は両親に簡単な状況を説明した。 「ですから、今から脈を正常値に戻すための処置をさせてもらいますね。」 「―‥先生!お願いします。この子は、椿はこの一年身体も動かせずずっと寝たきりで‥。話すこともできずに、我慢してきたんです。‥椿を、椿を助けてやってください!」
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