文化祭

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その場にいるのがいい加減、息苦しくなった茉帆はカッターを片手に隠し持って、教室から出た。 廊下へ出ても、他クラスの忙しそうに、けれど楽しそうに準備をする声でいっぱいだった。 茉帆は、階段へと向かう。 帰るわけではない。 上へとあがっていく階段をのぼっていくつもりだった。 階段のすぐ近くにあるのは五組の教室。 お化け屋敷をやるということだけあって、教室内は真っ暗だった。 「…御影っ」 階段の踊場まで来たときだった。 学校内で自分の名を呼ぶのは先生だけだと、茉帆は思い始めていたのに。 下から声がする。 振り返らなくても、誰だか分かっていた。 …松本。 反射的に、茉帆は一瞬その場に立ち止まった。 けれどすぐにまた歩き出そうとする。 「なあっ!待てよ」 逃げるように、茉帆は階段を駆け上がっていた。 ちらっと見えた松本の真剣な表情に、心が揺れてしまいそうで。
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