序章

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陽の中の緑に慣れた僕の目には、陰の中のその紅はひどく鮮やかに映った。 「そこで、何してるん?」  鈴を振るような声。聞き慣れないなまりの入ったそれは、小指の爪ほどの大きさのちりちり鳴る鈴というより、赤ん坊のにぎり拳くらいの鈴の、かろんかろんという音に似ていた。語尾が上がっているから、訊ねられているということがなんとなくわかる。  声の主は、少女だった。  肩口で切り揃えた髪は、カラスの濡れ羽色と表すのにぴったりのつややかさ。 鹿の子でできたリボンを結び、玉のついたかんざしをさしている。 お祭りや七五三でしか見ない着物を着ていて、畳に座った姿はまるで写真か絵みたいだった。 顔は陰になっていてよく見えない。 ただ着物もリボンもかんざしの玉もみんな、少女がいる陰の中でもはっきりとわかるほど、目の覚めるような紅色をしていた。
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