『唇・吐息・夢』

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「…はぁ…ね、もっとぉ……」 彼女はねだる。 もっと深くて貪欲で、激しい口づけを。 でも俺は唇を放し、彼女に意地悪をする。 首筋に舌を這わせ、指先でくすぐる。彼女は身をよじり、甘い吐息を吐く。 彼女のカラダに優しく触れる。それだけで彼女はピクリと反応し、抱きついてくる。 俺は再び唇を貪りながら、彼女の柔らかい胸に触れた。 ふわっとしていた。 ふさふさで、暖かくて……ん? 「お前馬鹿か?別れた彼女の夢見ながら自分ちの猫の尻触ってたとか」 「し、仕方ねぇだろ。見ちゃったもんはさぁ……」 こんな事話した自分が悪いけれど、目の前で馬鹿にして大笑いする悪友を俺は睨んだ。 ……一週間前、俺は六年間付き合っていた彼女に、さよならを告げられた。 『ごめんね。私、他に好きな人ができちゃったの』 「お前、まさかこの歳になって夢精しちゃったんじゃないだろうなぁ?」 「しねぇよ馬鹿」 笑いすぎて呼吸困難になりながらも俺をからかう。 からかっては酒を口に運び、つまみを食い、また笑いだす。 なんなんだこの酔っ払い、と思いながら、俺もちびちびと酒を喉に流した。 喉が熱くなった。 目頭も、なんだか熱い。 テーブルに、ポタっと雨が落ちた。 そいつは、俺の涙だった。 「まぁさ、そんなに落ち込むなよ。出会いなんて、結構そこいらに転がってるもんさ」 俺の肩を叩き、不器用にも慰めようとする悪友。 ヤツはもう、笑ってなんていなかった。優しい眼差し、暖かくて安心した。 朝方まで酒を飲み明かした。 ふらふらになりながら店を出て、冬の外の空気を吸えば、心がなんだか軽くなった。 朝日が、凄く眩しくて、輝いていて…… また、今日が来る。 今日が終われば明日が来る。 明後日も来る。 今でも彼女の事が忘れられないけれど、悔しくて哀しいけれど、きっと、これも良い思い出になるさ。 きっと…… ……きっとな。 タイトル ~明日~
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