82人が本棚に入れています
本棚に追加
「…はぁ…ね、もっとぉ……」
彼女はねだる。
もっと深くて貪欲で、激しい口づけを。
でも俺は唇を放し、彼女に意地悪をする。
首筋に舌を這わせ、指先でくすぐる。彼女は身をよじり、甘い吐息を吐く。
彼女のカラダに優しく触れる。それだけで彼女はピクリと反応し、抱きついてくる。
俺は再び唇を貪りながら、彼女の柔らかい胸に触れた。
ふわっとしていた。
ふさふさで、暖かくて……ん?
「お前馬鹿か?別れた彼女の夢見ながら自分ちの猫の尻触ってたとか」
「し、仕方ねぇだろ。見ちゃったもんはさぁ……」
こんな事話した自分が悪いけれど、目の前で馬鹿にして大笑いする悪友を俺は睨んだ。
……一週間前、俺は六年間付き合っていた彼女に、さよならを告げられた。
『ごめんね。私、他に好きな人ができちゃったの』
「お前、まさかこの歳になって夢精しちゃったんじゃないだろうなぁ?」
「しねぇよ馬鹿」
笑いすぎて呼吸困難になりながらも俺をからかう。
からかっては酒を口に運び、つまみを食い、また笑いだす。
なんなんだこの酔っ払い、と思いながら、俺もちびちびと酒を喉に流した。
喉が熱くなった。
目頭も、なんだか熱い。
テーブルに、ポタっと雨が落ちた。
そいつは、俺の涙だった。
「まぁさ、そんなに落ち込むなよ。出会いなんて、結構そこいらに転がってるもんさ」
俺の肩を叩き、不器用にも慰めようとする悪友。
ヤツはもう、笑ってなんていなかった。優しい眼差し、暖かくて安心した。
朝方まで酒を飲み明かした。
ふらふらになりながら店を出て、冬の外の空気を吸えば、心がなんだか軽くなった。
朝日が、凄く眩しくて、輝いていて……
また、今日が来る。
今日が終われば明日が来る。
明後日も来る。
今でも彼女の事が忘れられないけれど、悔しくて哀しいけれど、きっと、これも良い思い出になるさ。
きっと……
……きっとな。
タイトル
~明日~
最初のコメントを投稿しよう!