『紅・滴り・指先』

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顔に白粉を、唇には薬指で紅を差し、着飾る私は格子の中で主様を待つ。 道行く男達を見、今日の主様を色好いする。 「上玉が揃っておりますよ」 妓夫が客引きを始める。 あのお方なら……と皆口々に騒ぎ立てるが、来たのは脂ぎった巨漢。 皆さり気無く視線を下げながらも、明るい声を出す。媚を売る。 あの巨漢は初会だから、今日は何もないだろう。 でも、次に来たら……馴染みになったら…… チラリと巨漢を盗み見る。 ギラギラした眼差し、舌舐めずりがなんとも下品だ。 とてもじゃないけれど媚を売る気にはなれず、俯きそっぽ向く。 禿(かむろ)の頃から親しくしている女郎、花扇が私の肩を小突く。 前を向け、笑顔を見せろ、と。 客を取らねば身が滅ぶ。それは分かっている。 身請けをして客を取る毎日から逃れたい。 自分の容姿がもっと良ければ、太夫にだってなれたかも知れないのに。 位の高い客を取り、あのような下品な客は取らなくたって良いのだから。 「芳野」 名を呼ばれる。 皆、安堵の溜め息をつき、私もほっと肩を撫で下ろす。 指名された女郎は、一瞬だけ心底嫌そうな顔をし、直ぐに華やかな笑顔を取り繕った。 私は、数人の主様を相手にした。 今日は馴染の者ばかりで、とてもやりやすかった。 前結びの帯を幾度と無く解かれ、時に優しく時に激しくまぐわいあった。 「夕霧、今日はお前に手土産を持って来たんだよ」 「まぁ、主様」 主様の手には、可愛らしい簪。 私は、このお方を心よりお慕いしている。 大商人などではないし、身請けなど到底期待出来ないけれど、甘く囁く主様のお声が好きだった。 口にはとても出せないけれど、本気だった。
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