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「あ」
声の主は、篠田先生だった。
まだ若い教師で、歳は確か、24くらいだったかな。
新任で、クラス担任はしていないが、私は先生から数学を教わっている。
授業以外で話したことがないから、もしかしたら先生は私のことを知らないかも。
「湯野さんじゃん、どうした?そんなところで」
うわ、名前、覚えてたの。
今年の4月から私のクラスの数学を担当することになってまだ2週間だから、運良ければ知らない生徒が泣いていた、で済まされると思ったのに…。
「よくわかりましたね、名前」
私は、いつものしっかり者の自分を取り戻そうと、必死だった。
しかし先生は、私の顔を見て、私がどういう状況だったかすぐに理解したようだった。
「生徒の名前くらい覚えてるって」
笑ってそう言うと、私の隣に座り込み、壁に背を預けた。
その時初めて、先生の顔をしっかりと見た気がする。
生徒たちから人気があった先生。ミーハー嫌いの私は、皆がかっこいいという人には大抵興味がもてない。しかし、この先生は、違った。
私はいつのまにか、先生の笑顔に見とれていた。
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