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「咲良様のことは諦め下さりませ。
もし生き延びていたとしても、石蕗王のもとへ連れていかれた可能性が高うございます」
「それなら余計助けにいくべきだろ!
秘密が知られれば、咲良がどんな目に遭うかわかってんのか!?」
「瑞樹様、成人にはいささか早くはありますが、こうなってしまった以上、もはやその手を離していただくしか」
笹彦は瑞樹の左手を見た。
そこには切断された咲良の右手が固く握りしめられていた。
「咲良を諦めろっつーのか!?
この手を離せばもう二度と会えなくなるのに!」
ぱんっ、と、乾いた音がした。
笹彦が瑞樹の頬を打ったのだ。
烈火の表情で笹彦は叫んだ。
「いい加減になさりませ!
これも王族として生まれついた者の定めなれば!」
瑞樹も笹彦の頬を張り倒した。
「何が王族だ!
俺たちが赤子のときに滅んだ国だろ!
俺も咲良も、どんな国だったか覚えてもいないのに!
俺たちはもっと普通に、平らかで和(ニギ)なる場所で、何でもないただの双子として生まれたかったっ……!」
笹彦が呆気にとられたように呟いた。
「瑞樹様……」
「咲良……!」
瑞樹は片割れの手を抱いて泣いた。
その背を撫でようとして、笹彦はためらい、手を握り締めた。
「申し訳ありませぬ……」
その言葉はあまりにも漠然としていて、何に対しての謝罪なのかは、お互いにわからなかった。
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