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瑞樹は咲良の鼓動を感じて目を見開いた。
「咲良?」
左手は残された咲良の腕ごと布で巻き固めてある。
「瑞樹様、大丈夫ですか?」
笹彦が念を押すようにこちらを覗き込んでくる。
「……何でもない」
瑞樹は右手の剣を握り直した。
二人は山の上から、かつて青生王家の里だった場所を見下ろしていた。
竪穴式住居から人々が出てくるのが見える。
その中に籠を持った娘がいた。
この前傷の手当てをしてくれた娘だ。
彼らは今日も石蕗王の奴隷として、山で木の実を採り、獣を狩り、乾田に米を育てに行くのだ。
「こちらの手筈は整いました。
瑞樹様、号令を」
笹彦に促され、瑞樹は頷いた。
周囲には散り散りになった仲間たちが集まっていた。
以前より人数が膨れ上がっている。
瑞樹が挙兵すると聞いて、身を潜めていた青生の民たちも集まってきたのだ。
彼らはいよいよ瑞樹の成人の儀が行われると思っているのだろう。
瑞樹はまだ決められないでいた。
成人の儀とは、双子が手を離すということ。
そして、別たれた双子はもう二度と会うことはできない。
左手に鼓動を感じる。
咲良はまだ生きている。
咲良の言うとおり、自分たちは別れる定めなのかもしれない。
けれど。
笹彦がもの言いたげにこちらを見ている。
どちらにせよ、囚われた咲良を救出するには、この方法しかない。
瑞樹は大きく息を吸い込んだ。
「これより里を奪還する!
石蕗王の手より我らが青生の地を取り戻せ!」
「おおおおおお!」
森の中に青生の兵たちの怒号が轟いた。
それは山自体が唸っているようにも聞こえた。
瑞樹たちは雪崩のように斜面を駆け降りていく。
石蕗王の配下たちが慌てふためいて住居から出てくる。
一方、奴隷である青生の民たちは機敏だった。
女たちは家屋に火を放ちながら逃げ始めた。
男たちは隠し持っていた武器を手にとり、石蕗王の配下たちに襲いかかった。
これは何年も前から決まっていたこと。
やがて青生王家の双子が成人し、この里を取り戻しにくる。
青生の民たちはずっとこの日を待っていたのだ。
すぐに里は大混乱に陥った。
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