八の巻

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八の巻

薫子内親王が病により、幼い命の灯が消え、楓殿は、静まり返っている。帝は、床につく華子を里下がりもさせずに毎日、見舞っていた。 そして吉報を持ちこんできた。 慧仁東宮が東宮を綾仁親王に譲位すると。 しかし華子は逆に心配を募らせた。 <どうした、うれしくないのか> <うれしゅうございます。されど左大臣殿がお許しにはならないのではないかと> <いらぬ心配だ。すでに立太子の儀の準備は始まっている> <されど藤壺のお方に皇子がお生まれになれば、後ろ盾のない綾仁は、引きずり下ろされます> <案ずることはない。綾仁への入待が始まる。慧仁殿は、綾仁に、先の帝と中宮の間に生まれた沙子姫を輿入れされるそうだ。左大臣殿に取っては姪になる。祖母君はわが父の妹だ。身分に問題はない。さらに後ろ盾は慧仁殿がおられる。そなたとて皇女だ、その皇子から東宮を奪うことはできない。安心されよ> <ありがとうございます>こうして、常盤帝の皇子皇女への輿入れが始まった。 東宮、綾仁のもとには、崇司帝の三の宮、沙子内親王。 常盤帝四の宮、敦仁親王のもとには崇司帝四の宮那子内親王。 慧仁親王一の宮、智仁親王には、崇司帝の一の宮椰子内親王 崇司帝のたった一人の皇子、晴仁親王には、華子中宮の一の宮、琳子内親王。 常盤帝の五の宮、枇子内親王は、樺讃院が出家後に生まれた美仁親王のもとに、それぞれ決まっていった。 左大臣の付け入る隙がないように、次の東宮は、ふたたび、羚泉院系に取り戻すようにも見えた。中宮華子は、綾仁の立太子、琳子内親王の婚約を見届けて、安心したように他界してしまう。 帝の嘆きは、大きく、政務にも支障がでるほどだった。 この機会に帝の興味を自分にと、他の女御たちは躍起になっていた。
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